ノンフィクションですから。

小学校に入った俺は勉強がそこそこできたから、少なくとも勉強を理由に怒られることはなかった。



姉と違って。


姉の成績は中の中くらい。
母は相変わらず姉を叱っていた。もちろん手も上げた。

俺は罪悪感に苛まれた。

俺が勉強ができるから姉が叱られる。

俺が勉強ができなければ姉は叩かれることもないのに。

俺がいるから姉は不幸になる。

俺さえいなければ姉は痛い思いをしなくてすむのに。


俺さえいなければ。


しかし不幸なことに、俺は特段勉強しなくても人並みにできた。

だから手の抜きようがなかった。

でもそれは嘘だ。

手は抜けないなら解答欄を抜かせばよかった。

でもそれはできなかった。
自分が怒られることが恐かったから。


俺は姉を見殺しにした。

卑怯者だ。

口答えしてさらに叩かれる姉を見て、無意識のうちに俺は反論することを自分に禁じた。

黙っていれば少し軽くなるから。

父に言い付けることもしなかった。

姉が父に言い付けたあと、母は父に叱られ、今度は父がいないときに姉を叩いたから。

父に言ったら姉はもっと苦しむから。





だけど1度だけ悪い点を取ったことがある。

小学校2年の社会のテストだ。

テストの裏に迷路があった。

俺は問題をろくに解かずに夢中になった。

20点だった。

俺は恐怖で泣いた。

殴られる、痛いと。

しかし母は叱らなかった。
ショックな顔はしていたけど。


母から見た俺と姉の差、性別以外は今もわからない。

ただ俺は恐怖で縛り付けられていた。