何にも持ってないてぇのも楽ではない。

ずっと前のことだけど。
もう誰にも感情を揺らされたくないから、余計な感情とか、大事なはずの人間関係のほとんどは何処かに捨ててしまった。
物質世界への興味も捨ててしまった。
自分のやるべきことだけをやる…というかそれ以外に目を向けるキャパシティなどなかったから。今もないけど。
だからもう色んなことがわからない。流行りとか…まぁほとんどそれか。

それでも大学で化学を学んだこと、光触媒にのめり込んだことは微塵も後悔していない。
いや、後悔という感情もなくしてしまっただけだ。



多分、他の人から見たらつまらない生き方だと思うんだ。遊びも知らない、面白いことも知らない、友達も極めて少ない、あるのは他人は愚か自分にすら理解不能な高いプライドだけ。

かつて選択肢はあった。方向を完全に変えるチャンスはあった。でも捨てた。化学屋を貫き通した自分に興味があったから。見てみたかったから。

それが今の俺。
一応、貫き通したと思う。
ただ、失ったものは大きく、もう還らない。だから今まで失ったものを見ないようにしてきた。

そして今後も見ないようにしようと思う。
見たところで多分、もう拾えないとゆうか落ちてない。
何よりそういうふうにしか生きられなかった。一人で抱えられない傷が誰にも理解されないならば一人でいるしかなかった。ほぼ全てを敵と見なして、戦わねばならなかった。

だから決めた。
絶対に俺みたいな人間を作らないと。
俺にできることはそれだけ。それを成せた時俺は救われるだろう。大事なものをなくしたことにも意味を見出だすことができるだろう。


そう思ったんだ。
うん、俺はやっぱりそんな風にしか生きられないんだよ。